2023年に読んだ本の中から、面白かった作品をピックアップしたいと思います。※2023年に発行された本、というわけではありません。
ミステリーや推理小説が好きなので、そちらのジャンルにすごく偏ってます。
↑写真は金沢でGOGOカレーを食べながらピーター・スワンソンの『8つの完璧な殺人』を読んでいたときのもの。主人公の書店員さんが実は交換殺人もやって奥さんも事故死させていた、というなんとも後味がよろしくなく。。
『遺産相続を放棄します』 木元哉多 KADOKAWA
今は没落したかつての大富豪の跡取り息子の「嫁」が主人公。その跡取り息子の奇想天外な行動に振り回されながらも、金持ちになりたいという一心で(間違った方向で)努力を重ねる、という物語。これまであまり見たことのない展開のミステリーです。跡取り息子が最後まで純粋に主人公を想っているのがいいですね。
『スイッチ』『時空犯』『エンドロール』『あらゆる薔薇のために』 潮谷験 講談社
読んだ順はバラバラなんですが、この作家さんの作品は安心して読めるクオリティですね。
・スイッチ
スイッチを押したら家族が破滅することになるので、誰もそんなものは押さないだろうと思っていたら、押されていた・・・。犯人は誰で、何のためにそんなことをしたのか、結局はその家族を守るためだった、なんですが、なるほどと唸らせる作品です。
・時空犯
1000回近く時間を巻き戻す犯人の意図は何か、そもそも時間が巻き戻るのはなぜか、よく考えられてます
・エンドロール
物語を終結させる権利は誰にでもあると言って自殺を肯定する側と、それを否定する側、の物語ですが、肯定する側も否定する側も単純な話にはなっていません。サッカーで道を断たれた側(自殺肯定派)と成功側(自殺否定派)の二人のセリフが印象的。
「お前だって、選手としてダメになったら絶望するだろうが! サッカーで生活できる道が絶たれるんだぞ!」
「俺はボールを蹴る、という運動自体が楽しくて、サッカーを続けている。評価されなくても、トップに上がれなくても究極的には困らない」
・あらゆる薔薇のために
難病患者を完治させるからくりが事件解決のカギなんですが、冒頭とラストがつながっていて読後感がいいです。
『マネーボール』『世紀の空売り』『フラッシュ・ボーイズ』 マイケル・ルイス 早川書房
著者は他にも、自身のウォール街での経験を描いた『ライアーズ・ポーカー』、ネットスケープ社を立ち上げたジム・クラークを描く『ニュー・ニュー・シング』、行動経済学がいかにして生まれたかを描く『後悔の経済学』などたくさん本を出していて、私も全部は読んでないですが、読んでいて面白かったのは今のところ表題の3つでした。
・マネーボール
映画にもなった有名な本だと思います。弱小の野球チーム(アスレチックス)を、統計の力を借りて資金3倍のチーム(ヤンキース)と成績を同等に仕立て上げたマネージャーの話。題材が身近で、個性あふれる登場人物が多数登場します。私はその誰も知りませんが、生き生きと描写されてます。
・世紀の空売り
サブプライムローンから作った金融商品である債券の値下がりに期待して、空売りを仕掛ける人たちの話です。債券自体は空売りできないので、値下がりしたときに保証してくれる「保険」を大量に買う、という仕組みや、格付けの適当さ、ローンが焦げ付きだしたのになかなか債券価格が下がらないという保守的な内情を含めて、リーマンショックがなぜ起こったのかがよくわかります。
・フラッシュ・ボーイズ
株式の超高速取引について書かれた本です。すごい人たちがいるものです。
【電子フロントランニング】ある取引所で取引があった瞬間に、次の取引所で真っ先に買い、すぐに売る。最も早く買えたものが勝つ。少しの株を売りに出して、買われた瞬間にほかの取引所の株を買い、1セント高くして売る。
【スローマーケット鞘取り】ある株価が変動するところを見て、取引所が反応するよりも前に、他の取引所でその株を買う。大口の売り手が表れて、その取引所で株価が一瞬下がった瞬間に買い、他の取引所で下がる間もなく売る。
こういった、超高速取引に対抗した新しい公平な取引所を作った物語です。
奥付によると、日本でも、証券取引所のサーバーの近くにコロケーションできるサービスがあり、外国資本が入って一般投資家を食い物にしているらしいです。
『覇王の譜』 橋本長道 新潮文庫
著者は、奨励会に入会してプロ棋士を目指された方とのことで、そういった方にしか書けないような小説です。
物語は、主人公の棋士と、かつて親友だった強棋士との盤上のバトルを描いたものですが、棋士の頭の中はどうなっているか、どういう思考回路なのか、棋士でないと書けない内容だなと思いました。手に汗握る熱い内容です。
『ザ・ソングライターズ』 佐野元春 スイッチパブリッシング
数多くのシンガーソングライターにインタビューしたNHKの番組内容を単行本化したものです。
「歌詞」とは何か、をとことん深く追求しています。人気のシンガーソングライターは、それぞれの歌に対する哲学を持っていることがよくわかります。こんなことを考えながら作詞しているのか、ということがよく分かる。
むちゃくちゃ分厚い本なんですけど、インタビュー形式なのでスラスラと読めます。
『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』 ロバート・コルカー 早川書房
50年ほど前のアメリカで、12人の子供が生まれ、うち6人が統合失調症となった壮絶なノンフィクションです。統合失調症になるのは「母親のせい」であったり「幼少期に受けた強いトラウマのせい」といった環境原因が当時は主流でしたが、遺伝子研究が進み、家族もその研究に協力していたことから、この本が生まれました。
現在では、統合失調症となる遺伝子は(具体的に何かは判明していないものの)最初から組み込まれているが、環境がそのスイッチをONにするとの説が有力だそうです。
『地図と拳』 小川哲 集英社
直木賞作品です。この作家さんは天才を描くのが実にうまく、天才的な人はどういった思考回路なのか具体的に描いてくれるのが面白いんですが、カンボジアにおける数々の内紛を天才的に生き抜く『ゲームの王国』(上巻が特に面白い)、短編集なんですがそれぞれ完成度が高い『嘘と正典』、問題が出される前に回答できたのはなぜかを追っていく(これも天才的な話)『君のクイズ』と良作を生み出し続けてくれています。
さてこの作品、600ページ以上あります。
時は1899年から始まり、舞台は満州、1955年に終わります。時期ごとに章が切られていて、そのときの登場人物が後にも出てきて絡み合います。
銃を撃たれてもはじき返す人が登場したりとややファンタジー要素もあるんですが、妙に説得力があって、中国にならそういう人が一人くらいいるかも知れないな、と思ってしまいます。
地図を描くとはどういうことか、建築とは何なのか、登場人物から語られるこれら哲学は深いです。
村が全滅したりもして凄惨な内容もあるんですが、とにかくすごい本でした。圧巻。
『頬に哀しみを刻め』 S.A.コスビー ハーパーブックス
アメリカの新進気鋭の作家で本作が3冊目。いろいろな賞を総なめにしているらしいということで読んでみましたが、いや深い。
人種差別、LGBTQ、偏見、家族愛、こういった素材に対して、表面をなぞるのではなく、かなり深く切り込みつつ、物語の主軸は、元受刑者の老人2人がギャング相手に戦争して最後は勝利する、というもの。
読み応えもあって、最後はけっこう感動します。
『不実在探偵の推理』 井上悠宇 講談社
『誰も死なないミステリーを君に』の作者による新作。「誰も・・」は普通に面白かった作品でしたが、こちらも設定は、「見えないものが見える」というもの。
その見えるものとはさいころに封じ込められている名探偵のことなんですが、名探偵はしゃべることが出来ず、質問に対して、さいころの目を通して、「はい」「いいえ」「わからない」程度しか回答できない。
という設定上の縛りを設けたうえで、一連の事件を解いていく。筆致は筆者らしい読みやすいもので、一段階上の面白さでした。
『時空旅行者の砂時計』 方丈貴恵 東京創元社
鮎川哲也賞受賞。タイムトラベルもので、過去に戻ってなぞを解く、というもの。
主人公は、妻が病気になった原因(竜泉家の呪い)を根本から取り除くため、大規模な事件が起こった過去にタイムトラベルします。どのように殺害されたのか、そのトリックは何か、犯人当てのどんでん返し含めてよくできた作品です。
主人公は事件(呪い)を解決して未来に戻ってくるんですが、私の疑問として、原因が解決すると妻は病気にならないので主人公は過去に戻らないのではないか、そうすると、解決した瞬間に過去は改変されて過去にいる主人公は消えるのではないか、とも思ったんですが、心温まるハッピーエンドになるので細かいことは気にしません。
以上、2023年に読んだ面白かった本でした!!