ティール組織の実践例

診断士

「レッド組織」「オレンジ組織」「グリーン組織」そして「ティール組織」と環境や状況に応じて組織は進化してゆく、ということで、このティール組織、要するに「自走する組織」ということかと思いますが、先日、卸売業をされておられる代表の方にお話を伺う機会があり、「ティール組織」の実践例ではないかと思いましたので、簡単にご紹介します。

ここでのやり方は全ての中小企業に当てはまるものでは決してないものの、参考となる点が多いと感じました。

過去のいきさつ

その会社では、これまで売り上げの大勢を占めていた大口の得意先から突然取引を停止され、経営危機に陥りました。

そのため、代表は小口の取引先の開拓に走り、少しでも売り上げを伸ばそうとします。

ところが、小口相手は手間がかかり効率的ではなく、歩合制(成果主義)で個人主義だった従業員からは反発され、その当時の社内の雰囲気は最悪だったそうです。しかし、大口依存はもうできない以上、生き残る道は小口しかないと考え、小口に特化させます。

顧客(ターゲット)

対象となる顧客(ターゲット)につきましては、小口に特化させることから「安売りをしない」ことが前提となります。小口は手間がかかるため、生産性を高めることが難しく、安売りではそもそも収支が成り立たない、つまり、安売りができない、といった方が正確かもしれません。

安売りをせずに、それでも顧客から要求される、ということは、他の会社には真似できない、その顧客にとっての高付加価値要素が必要です。

この会社では、その付加価値として「顧客要望に【徹底的に】に応える」「顧客の期待を上回る」こととしています。つまり、高付加価値を求める顧客(なので買ってくれる値段は高い)をターゲットにしています。

従業員

従業員には裁量を持たせ、権限を委譲しており、「お客様のため」であれば遠方まで自主的に仕入れに行くなど、当たり前のように実践しています。

従業員は、どうしたら顧客に喜んでもらえるかを考え、また、顧客からの要望を正確に理解、応えるための自己研鑽を怠りません。

組織

顧客満足が価値であり、売り上げはそれに付随するものとしたため、売り上げや効率などの数値目標を追う「成果主義」とはあまり相性がよくありません。売り上げが上がったからといって、顧客が満足しているとは限らないからです。また、小口顧客の細かな要望に応えるため生産性が上がらない(むしろ上げない)ことも、「成果主義」とは相いれません。そのため、この会社では「年功序列」に変えました。

販売する商品の知識やスキルは経験と共に蓄積されるため、年功序列的な給与制度にマッチする面があることと、長く働けば少しずつ給料が上がっていくという安心感、安定感があります。個人主義の成果ではなく会社全体の成果を追うこととなるため、家族主義的な一体感や助け合いの精神の醸成、ノウハウの共有促進が図りやすい面もあります。

一方で、年功序列の弊害として、サボる従業員が存在した場合、デキる従業員のモチベーションが下がる、という負の面が一般的には指摘されています。しかし、この会社では、全員が顧客志向のため、サボる従業員がいない、逆に、その社風に合わない場合は自然に辞めていくことから、モチベーションの問題は発生していません。採用も比較的好調で、辞めた方の代わりとして次の日に別の方が入社するそうです。

経営者

肝心なところは、しっかりと顧客のために自主的に働く従業員をどのように育てるのか、ということでしょう。

ハローワークに掲載し、応募してこられる方は、どの中小企業でもそうかも知れませんが、中卒や高卒の方、あるいは中途の方で、何も分からないまま入社してこられる方もいます。仕事をするぞという強い意気込みや、成し遂げたい何か、自分の人生の目標や夢、そういったものを最初からみんなが持っているわけではありません。

そのような中で、会社のあるべき姿や、ブレークダウンした事業計画を提示しても、従業員にとってはある意味では理解が難しく「他人事」で、腹落ちしてくれるものではありません。従業員に、もっと単純に、仕事が楽しい、面白いと思ってもらえるためにはどうするか。更に具体的には、従業員が、

・顧客から感謝され、自分が必要とされている
・自分は大事な仕事をしている
・振り返ると自分は大きく成長している

などと実感できたとき、更に自走できる動力源となるでしょう。

そのために、この会社では、経営者の意識として、

・個々の従業員に経営者が向き合うこと
 -個々の従業員の個性を活かす、得手不得手や性格など人によってさまざま
・従業員に思い切って任せること
 -従業員の自主性を育み、顧客のために自ら考える機会の提供
・任せた結果をフィードバックし、次の成長につなげること
 -自分だけでは気づかなかったこと、広い視野の獲得

など、経営者が先導して従業員をぐいぐい引っ張る・・・のではなく、従業員が活躍、自走するための土台(プラットフォーム)を提供する、という意識があります。これが、この会社のキモとなります。

まとめ

1.付加価値は徹底した顧客対応力にある
2.そのために、徹底した顧客志向を持つ従業員を育成している
3.情報流通の促進や相互支援を図るため年功序列としている
4.従業員に権限を委譲して自ら考えさせている
5.給与等の外発要因ではなく、成長等の内発要因を経営者が重視している

順序としては、3~5で従業員の成長のための土台を作って2につなげることによって1を実現している、という構図です。

ポイントとなるのは、最初から1を掲げて従業員を引っ張ってもうまくいかない、というところで、2(従業員)があっての1で、その2(従業員)も、3~5(土台・経営者)あってのものなのです。

まさに、流れは、経営者 ⇒ 従業員 ⇒ 顧客 です。

この会社の事例そのものは特殊ですが、こういった考え方はある程度一般的と言えるかもしれません。